PROGRAM♪
一部
1.あの頃の恋 作詞作曲 田野ユタカ
2.木漏れ日の坂道 作詞作曲 田野ユタカ
3.帰郷 作詞 田野ユタカ 作曲 佐藤房夫
4.いえすたでい 作詞作曲 田野ユタカ
5.柳津・秋 【New】 作詞作曲 田野ユタカ
6.天城中伊豆誘い旅 作詞作曲 田野ユタカ
7.避暑地の恋 作詞作曲 田野ユタカ
8.モノクローム 作詞作曲 田野ユタカ
9.プラタナスの坂道 作詞作曲 田野ユタカ
二部
1.別れの数え歌 作詞作曲 加藤登紀子
2.Love Letter 作詞作曲 田野ユタカ
3.Tokyo City Lights 作詞作曲 田野ユタカ
4.僕が君に想う事 作詞作曲 田野ユタカ
5.ガラスのマドンナ 作詞作曲 田野ユタカ
6.十二単 作詞 柳川真寿美 作曲 田野ユタカ
7.美学 作詞作曲 田野ユタカ
8.瞳を閉じて過去を撃て 作詞 柳川真寿美 作曲 田野ユタカ
9.主のない部屋 作詞作曲 田野ユタカ
Enc.
1.背中合わせ 作詞 田野ユタカ 作曲 佐藤房夫
2.Canvas Top 作詞作曲 田野ユタカ
3.鏡の中の東京タワー 作詞作曲 田野ユタカ
『僕は次週、左目の手術をします、たいした事ではないが・・・』
ライブの終盤に明かした、今回のライブ開催の理由。
小さく驚く観客を前にし、さらに田野氏は続ける。
『仕事の区切りがちょうどよかったのもあるけど、それよりも何よりも、
まあ親からもらった体の一部が人工物になる前に、心の整理の意味でもライブを組みたかった』
それ以上多くは語らなかった。
(以降、レポというよりも一観客のつぶやきである事をお許しいただきたい)
私が手風琴に出向いたのは、これで3回目になる。
ふと9年前の情景を思い出した。隣には実母が座っており、当の私は結婚間近の身であった。
その時と同じ風景が今宵もここにあり、田野氏は9年前となにも変わらず、笑顔で弾き語る。
田野氏は変わらない。私はどうであろう?
11月に突入したというのに、今夜は少し蒸しかえすような陽気。
だが夜風はしっかり秋めいている。
店内は相変わらずの満席。一見すると女性しかいないような気がして、
「本日はレディースデイかなにかですか?」と訪ねてしまったほどだ(笑)。
もちろんそうではなく、後からぽつりぽつりと男性客も来店。
そしていつのまにか、見慣れた和気あいあいとした田野ライブの箱の完成だ。
しかしどこかいつもと空気感違うような・・・
それもそのはず、今宵、田野氏の隣でギターを演奏するのは、岩切ROKU修一郎氏である。
ROKU 氏の登場は後半のお楽しみとなるようだ。
まずは田野氏の弾き語りからライブはスタート。
カウンターに並んだ色とりどりのボトルを眺めていたら、一曲目が静かに始まる。
弾き語りライブは久々だという。
曲が始まると、それまでざわついていた観客が瞬時に潮を引き、緊張感が店全体を包む。
『あの頃の恋』
来た来た・・・一気に田野ワールドに引き込まれた。『後悔していない、あの頃の恋』
そう、後悔はしていない。あの頃があったからこその、今だ。
でも正直、若気のいたりで、記憶から抹消したい経験も多々ある(笑)
『木漏れ日の坂道』
秋の風が君の髪を揺らす頃・・・
田野氏の曲を聴いていると、なんとなく髪を伸ばしたくなるのは何故だろう。
そういったノーブルで深みのある女性になりたくなるというか、
そういうしとやかな女性であり続けてくださいよ皆さん、という、
田野流催眠術にかけられているような。
本人曰く、この曲は身内での”坂シリーズ?”の一曲だそうだ。
心地良い低音の声で、ゆっくりとそう語った。
『帰郷』
9年前のあの日、実母が一番好きと言っていた曲だ。なぜ好きだったんだろう。
それを解こうとを曲を歌詞を追って聴いていたら、『あーなるほど』と思った。
この楽曲は田野氏が学生時代に組んでいたユニット《葵-あおい-》で演奏していた曲だそうで、
相方の佐藤房夫氏が作曲担当した作品。
演奏で指がつってしまった(?)ようで、
田野氏は一度演奏をフライングして再スタート。店内に、観客の暖かい笑い声が響く。
『いえすたでい』
曲の中盤に、ポール・マッカートニーの名曲『yesterday』のフレーズが入る、珍しい楽曲。
聴く側は一瞬そこにはっとさせられるそのフレーズ投入の効果は、
曲のエンディングヘむけての盛り上がりへの、アクセントになっていると思う。
『柳津・秋』
『天城中伊豆誘い旅』
二曲続けてご当地ソングの演奏。
一曲目は新曲。途中で歌詞が飛んだが、それはご愛嬌。
こんな生のライブならではなので、そこは大歓迎である。
二曲目は、大多数の田野氏のライブに同行しているギタリストのホセ有海氏と、
伊豆で天城越えをした(?)時に旅館の女将さんへの贈り物として演奏した楽曲だそう。
田野氏の真骨頂である和のテイストがしっとり店を包み、一部の後半戦へと向かう。
(ここで深野義和氏が来店。しかも初だと言う田野氏の真正面の座席へ誘導!)
『避暑地の恋』
レポを書きながら聴いていたので、なかなかしっかり聞き入れる事が出来なかった。
しかし『僕も君も似た者同士だから』という詩だけはこの曲を聴くといつもガツンと頭に入ってくる。
『モノクローム』
本日初のアップテンポ。高音を出す時の固い声色が非常に魅力的である。
続いて『プラタナスの坂道』で第一部は終演。あれっもう終わり?
歌い込んで発声が徐々に良くなって来た頃、休憩に入る。
余談だが、ギターはズルい楽器だ。
一見なんでもないような男性がギターを颯爽とかき鳴らした瞬間、一瞬でその人をモテ男にする。
ましてや元々何もしなくてもどことなく独特の色香を持つ田野氏やROKU氏がギターを持ったら。
ギターもズルいけど、歳を重ねるごとに魅力を増す男性というのは、もっとズルい。
女性は、男性の『手』を見るという。
ライブ中も、ギターを弾く手を眺めている女性客は多いのではないだろうか。
運転する時にギアを変える男性の手。何か作業をしている手の甲の隆々とした血管。
そしてギターを弾く手。何かに打ち込む男性の姿は、その人を最大限にセクシーに映すのだろう。
それに対し男性は、女性のどこを見るかというと、第一位は『顔』だという。
人は見た目ではないというが、男性から女性を見る視点に至ってはそう甘くはないようだ(笑)。
そんな事をあれこれ考えている休憩の合間に、二部で登場するROKU氏がPA機器のセッティングや、
ROKU氏がこれから演奏で座る席の横に飾ってあるフラワーアレンジメントの写真などを撮っている。
おそらく田野氏とROKU氏がお客様にいただいたのだろう。なぜ花をいただいたのか・・・
それは今夜がROKU氏の、田野氏との事実上の完全復帰ライブになるからだ。
ROKU氏は、田野氏の九州ライブ遠征に同行した帰路、自ら運転する車で事故に遭い、
生死の境を彷徨う重傷を負った。長い年月のリハビリを経て満を持してファンの前に完全復帰した。
故に今夜のライブは、田野氏の目の手術前の心の整理と、ROKU氏の完全復帰とを兼ね合わせたという、
大変貴重なライブだったわけである。
ROKU氏はこの後第二部の途中で、
大事に保管してあった九州ライブの時のセットリストが載った紙面を披露してくれたのだが、
それを見ると、当時痛みで辛かったであろうROKU氏の事を思うと胸が苦しかったのと同時に、
その当時の田野氏の心情を想うと、それに対しても非常に胸が苦しかった。
お客に配布されたセットリストには無い曲で第二部がスタート。
加藤登紀子さんの『別れの数え歌』をカバー。
この曲は田野氏の大のお気に入りなそうなのだが、残念な事に、
カラオケで歌いたくても、どこのカラオケ店にもこの曲は入っていないのだそうだ。
どなたかこの曲をカラオケ店で発見したら、田野氏へ愛の御一報を(笑)
『Love Letter』
私はこの曲を5月の西荻ライブで、ピアノ弾き語りの中村友美さんとのコラボでの演奏を聴いた。
彼女の澄んだ声のコーラスと田野氏の弾き語りは清涼感があり素晴らしかった。
今回は一人で情感豊かに歌いあげられ、どちらも甲乙付けがたい。
とここで、待ってましたと岩切ROKU修一郎氏の登場。
似合い過ぎのロン毛をさらりとかき上げたROKU氏が田野氏の隣にスタンバイ。
ちょい悪で紳士に素敵に歳を重ねるイケメン二人の揃い踏みで、第二部は佳境に。
『Tokyo City Lights』
ファーストアルバムで第一曲目に収録されたこの曲を聴くと、自動的に都会の夜景が浮かんでくる。
聴いているだけで、映画を見ているかのようにストーリー性があり、
個人の想像力をグルグルかき立てられるのが、田野氏の楽曲の特長だと思う。
『僕が君に想う事』
詩をたどるほどに、切なく重く響くこの曲。
『君の未来に僕の居場所は無いけれど、たどる記憶の中で僕は生きる』
お互いを想う別れもあるが、それを前向きに感じさせてくれる曲でもある。
『ガラスのマドンナ』
今宵はこれを目当てに来たようなものだ。
演奏が始まると何のコメントも出て来ない。
私が田野氏の楽曲で一、二を争う好きな曲である。
アルバムの編曲がROKU氏によるこの楽曲は…
ROKU氏のギター音を最大限に尖らせ、光らせる。
私は聴きながら沸き立つ感激に似た感情をどうすることもできず、ひたすら涙で頬を濡らした。
『十二単』
ガラスのマドンナの余韻をのこしつつ演奏されたのこの楽曲は、
田野氏自らも代表曲だと語る和の真骨頂。
ROKU氏とのコラボで、非の打ち所がないほど艶やかに歌い上げられる。
ここで手風琴さんとの所縁のエピソードなどが語られ、マスターをも巻き込んで楽しげな雰囲気へ。
田野氏とのお店との付き合いは長いそうだが、
信頼という木は時間をかけて育てられるものだと実感した瞬間であった。
『美学』
『瞳を閉じて過去を撃て』
アップテンポて攻めかかるライブ終盤。
田野氏のシャウト系ボーカルとROKU氏のギターが冴え渡る。ひたすらかっこいい。
かっこいいという単純明快な言葉以外に最適な用語は見つからず。
私の第六感までが激しく上下左右に揺さぶられ刺激され、軽く目眩がした。
弾く人によってここまで音色を変えてしまうのだから、音楽は深いのだ。
同じ楽曲を奏でても、西荻ライブ等で多くのステージをともにするホセ有海氏の手にかかれば、
ホセ氏の天性のリズム感により大地から湧き上がるような躍動感を見せたかと思えば、
時折見せる悲愴すら漂う痛いくらい繊細なメロディーラインを用いて、より肉厚な楽曲に仕上がるし、
ROKU氏の手にかかれば、田野氏にぴたりと寄り添い、けしてボーカルを邪魔をしない
丁寧なギターワークで曲に奥行きを持たせ、色香あるアンニュイな世界観を作り出す。
『主のない部屋』
比較的エンディングで多く登場するこの楽曲は、
ライブ終盤で高揚した観客の心を上手くクールダウンしてくれ、田野ライブにかかせない。
切ない詩だが、なせか希望を感じさせてくれる不思議な楽曲。
「お約束ね」と観客に煽られ、スタートしたアンコールは
『背中合わせ』『キャンバストップ』。
ROKU氏が店内を行脚し演奏するパフォーマンスが発生!
ライブ終盤でエンジン全開に温まったROKU氏のギターソロは、
生きる喜びにも似た眩しく華やかな音のシャワーとなり、店内中に振りまかれたのだった。
そのけしからぬ(笑)かっこよさに酔いしれた後、
オーラスは田野氏の『鏡の中の東京タワー』で締めくくられた。
今をときめく東京スカイツリーがクローズアップされる都心ではあるが、美しさの面に至っては、
特に夜景は、私はスカイツリーよりもやはり東京タワーの方に軍配が上がると思うのだ。
この楽曲は、そう確信させてくれる。
(この時田野氏から、今夜楽天イーグルスが初優勝したと告げられた!がんばった、東北!)
ライブが終演し、いつもの様に田野氏と握手を交わし店の外へ出ると、
蒸した陽気だったはずの夜風がすっかり冷たくなっていた。
by くみ
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