田野と京都の話−5       「古都」から…夏

♪京都の夏は夕涼み 祇園祭りに大文字…

           加茂の畔に月が出る 水面に映えて月が出る

            浴衣姿の 影二つ♪

 京都の夏は、とにかく暑い!蒸す!盆地特有です。この時期に行くもんじゃない
 と思いつつ、これがまた風情なのかなぁ?まぁ、東京も大阪も…どこもどうせ
 暑いんだけどね。浴衣着て夕涼みったって汗だくだし、大文字なんかは
 誰かのマンションかホテルでクーラー効かせて灯かり消してる方がいい・・・
 なんて言ったら元も子もないよね!

 この時期は比叡山、大原、鞍馬・貴船、高尾・栂ノ尾あたりが涼しい。
 あれ?避暑の話しじゃない?ふにふに!でも2〜3日いると慣れるんだね
 この暑さに・・・。京の暮らしの夏の知恵や風情が薫る瞬間があります。
 まぁ、祭りは葵、祇園、時代の三大祭りが有名だけど、田野はその時期は
 避けて行く事が圧倒的でしたから、祭りではなく、夏の京都のお気に入り
 =清滝温泉の話をしましょう。
 いつだったか車で偶然迷い込んで、心惹かれいた鉱泉宿に
 初めて泊まろうと思い立ったのは、まだ学生の頃の事でした。


 とある8月の終わり、所用で大阪方面に行った帰りにぶらりと京都に立ち寄り、
 1泊目は嵯峨野の定宿で熱帯夜に悶絶してました。車じゃなかったので
 動きが取れず、2泊目は暑さを避けて山陰線の保津峡駅界隈が涼しいかと思い、
 宿を求めて降り立ちました。JRの駅だし市内から一駅だけなので、ひなびた中に
 保津峡の川の流れだけが聞こえるような宿くらいあるだろう・・・
 とイメージしていました。んがぁ、何も無い・・・駅にも誰もいない?む、無人駅?
 列車を降りたのは・・・田野の他には背負子を背負ったおばちゃんだけ?お店の
 一軒さえない・・・愕然としました。おばちゃんは怪訝な顔でこっちを見ています。
 田野はいかにも「よ、用があってぇ、あえてぇ、わざわざぁ、この駅にぃ、
 降りたんだぁぞっ!」ってな顔を繕う努力を試みましたが、む、虚しい・・・。

 おばちゃんを迎えに来ていた軽トラの荷台に乗せてもらい、「宿のある所まで・・・」
 送って頂く事となり、着いた所が嵯峨野。昨日迄泊まってた所だとも言えず、
 鮎茶屋で軽トラを降りると、思案の末にいつか車で偶然見つけて気になっていた
 清滝温泉を思い出し、鮎茶屋から奥へと歩を進め、長い隋道
 (このトンネルが涼しくて不気味でいいのよ!)を抜けて歩きました。
 切り立った渓谷に開けたひなびた鉱泉宿は、川に向って古い木造の客間が並び、
 部屋毎に小さな赤い堤燈の宿灯かりが欄干を夕闇に浮かび上がらせています。
 そこは京都からさえも一線を画した異空間?短いトンネル一つ越えるだけで
 行ける別世界?いつもとある憬れを持って眺めていた清滝荘。偶然とはいえ
 その凛とした空気を持つ玄関に、遂に田野は宿泊客として立ちました。
 夕暮れはもう、山間の里にヒンヤリとした風を運んでいました。
 「今夜は静寂の中に川の流れる音だけを聞いて涼しく眠れる。あぁ贅沢。」

 結局その日は嵯峨野のいつもの定宿にヒッチハイクの末夜遅く辿りつき、
 風の通らぬ納屋裏で、再び熱帯夜に悶絶している田野がいました。
 「満室どす」と断られたのでした。一見さんを敬遠したのか?
 一人旅を疎んじたのか?本当に満室だったのか?未だに判りまへん!くそ〜!
 見とけ〜! その後社会人になった田野は、最初の正月に堂々とこの清滝温泉に
 「ヨ・ヤ・ク」を入れて泊まりました。真冬の雪の中での迎春の味わいも
 奥深かったなぁ。でも涼しくて風情のある夏の清滝が田野は大好きです。
 水は綺麗で泳いでいる人もいます。「あ!白いトドがいる!」と思ったら
 トド体型のおっさんの甲羅干しだったりして大笑い!足を川につけて、
 蝉時雨を聞きながら、いくらでも時間を過ごせるような、静かに京の夏が逝く・・・
 そんな言葉が浮かんで来ます。そう、「京都・紅♪」に出て来ますよね!

 2〜3年前、最後に清滝に行った時、この隠れの宿「清滝荘」の宿灯かりが
 消えていました。経営が行き詰まったのか?立て直すのか?いずれにしても
 田野が好きだった清滝の風景は多分もうありません。
 その後、怖くて行っていませんし、見たくない気もします。
 でもこれを書いたのを機に、今度行ってみようかな・・・。
 好きな風景って必ず変わってしまうでしょ?
 京都にはそれが少ないと思っていましたが・・・
 いにしえの平安の都も、時代の風雪に耐えているんですね・・・。


                                                つづく

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