つれづれ日記
田野と京都の話−9
あぶり餅 編
♪訪ねてみたかったの つれづれ京都
今宮の茶屋座敷 風はゆるやか
簾越しに知らない 若い二人連れ
大徳寺帰りが かほるひそひそ話し♪
京都・紅より♪
京都の北方、茶と説法で有名な大仙院の大徳寺の
広大な敷地の裏手に「今宮神社」はあります。
ここは京都にあっては観光色は淡く、
大徳寺の後に立ち寄ると地味な感覚がありますが、
その分庶民のにおいがするお社だと思います。
それでもこの今宮神社の参道は、いつもそこそこに賑やか・・・
それはTVなどで有名になってしまった
名物「あぶり餅」の茶屋座敷が、本家と元祖を名乗って
二軒向かい合っているからです。
あぶり餅?なんやそれ?えへへ!
TVの紀行番組などで紹介されたり、
京都が舞台の二時間ドラマなどにもよく登場するので、
知られるようになりましたが、初めて「あぶり餅」を知ったのは
学生の頃、ゆきずりの旅仲間の口コミでした。果たして・・・
その参道には、炭火に炙られたお餅の甘い仄かな香りが漂い、
食欲をそそります。
簡単に言えば、竹串に挿した一口サイズのお餅を炭火であぶり、
きな粉と特製の白味噌のたれを塗して戴くというもの。
一人前10本くらいだったかな?上品な量なのでもたれる事もなく、
日本茶…特に緑茶ととてもよく合うのです。
二軒あると何かと比較されるので、どちらがどうとは書きません。
白味噌のたれの味に微妙に差あり、はっきり言って好みでしょう。
量は上品なので、はしごして食べ比べてみるのも楽しいですね!
でもこの二軒が切磋琢磨してきたお蔭で、
長い時を経ても変わらない味を守って来られたようにも思います。
田野はどっちの味も大好きです。
でも味とは別の意味で、好んでより多く行ったのは・・・
昔からの町屋の建物が生き残った事で、より古くてぼろく、
柱や梁などの黒光りが味わい深い一文字屋さん。
奥に幾つかある座敷に上がってゆっくり戴きます。
大婆ちゃんが店先で毎日お餅を焼いているのを、
小婆ちゃんがいつもフォローしていたっけ…。
大婆ちゃんの笑顔は文字通り「看板娘」でした。
今宮神社では4月の第二日曜日に「やすらい祭り」が催されます。
昔、桜が散る頃に流行り始める病を退散させる為に始まったとか。
広陵寺の牛祭り、鞍馬の火祭りと並び、
京都の三大奇祭の一つだそうです。
普段は穏やかな佇まいの静かなお社では時代劇のロケも行なわれ、
平安人の暮らしに密接であった事が、
歴史からも風景からも覗えます。
そんなお社の参道に向き合う二軒のあぶり餅屋さんは、
店構えも味も風情を感じずにはいられません。
一文字屋さんの建屋の中には平安時代の井戸が現役で残っており、
夏は今でも天然の冷蔵庫として西瓜などを冷やしたりするそうで、
そんな古井戸は、京都にもここの他には僅かに1〜2個所しか
残っていないんだそうです。古の暮らしを思う時、
田野は不思議な感覚に意識が遠のくような気分になります。
京都の底冷えの真冬や花冷えの頃は暖を取りによく寄りましたが、
一度だけ八月の終わりに寄った時は印象的でした。
盆地特有の蒸し暑い夏は、さすがに客足も遠のいて空いています。
でも簾越しに見える盛夏の風景や、
夕刻に鞍馬あたりから渡ってくる涼風が
座敷の裏から表に抜けていく時、独特な淫靡な空気が漂います。
向かいの座敷の若いカップルの会話まで聞こえてきそうな・・・
静かに京の夏が流れ、暮れていくのを感じていました。
詞にしたのは、正にこの晩夏のあぶり餅屋の茶屋座敷の風景です。
今宮神社のあぶり餅。グルメとしてもお奨めですが、
風情の味わい深さも是非ご賞味下さい。
混み合う冬にはグループか女性同志で・・・
そして人の気の少ない夏なら好きな人とでも・・・
是非行ってみて下さいネ!
田野が最後に行ってから、また何年かの時が流れました。
大婆ちゃん、まだお元気なんだろうか?
もし何方か行く事があったら、
BBSで大婆ちゃんのその後の噂を聞かせて下さいネ!
おしまい
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