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田野の日本紀行−9

岬めぐり−編

 紀州・和歌山は、父親の実家=お婆ちゃんの家があった彼方の故郷・・・でした。
 高校二年の夏、山本コータローの「岬めぐり♪」が流行った時、
 田野がイメージしたのは本州最南端の「潮の岬」でした。
 物心ついてから、幾度となく訪れた思い出深い紀伊半島・潮の岬の旅。
 イメージはどうしても夏・・・そして台風の通り道。
 幼馴染の男4人の、むさくてトビッキリ楽しい旅は・・・高校一年だったなぁ。
 あの時、ここの海で溺れかけたっけ・・・


     

 ☆ここは串本♪

 さすがに黒潮が洗う本州最南端の海水浴場は、水も景色も抜群にきれいです。
 潮の岬と紀伊大島、更に有名な景勝奇岩「橋杭岩」という天然地形に囲まれた半島突端が、
 黒潮の激しい流れにさらされる中で、岬の根元に遊泳可能な穏やかな砂浜が広がります。
 引き潮の浜辺から眺める大島をとても近くに感じてしまい、「泳いで行ってみようか?」
 今は医者になった幼馴染のS三と一緒に、自信満々で海に入っていきます。
 今や国際派ビジネスマンのK治と、かたや韓国の大学教授となったY則は砂浜で昼寝・・・。
 我々二人が絶好調で泳ぎ始めると、浜はどんどん遠くなり、あっと言う間に
 半分ほども来たでしょうか?まだ海の怖さを知らない若造は「楽勝」だと思ってました。


     

 ☆やばい♪

 ところが・・・着かない・・・いくら泳いでも・・・進まない。
 気が付くと先ほどまでの穏やかな海とは様相が一変し、
 うねりや白波に周りを囲まれていました。何が起こったんだ?
 そうか!特異な地形で守られていた遊泳区域を抜けたら、
 そこは黒潮が最も狭められて猛り狂う、潮流の激しいデッドゾーンなんだ。
 しまった…と言ってももう遅い。もはや浜に戻るより島の方が近い所です。
 島の人影が確認出来るのに比べて、浜は遥かに遠い。「一度島まで渡ってしまおう」
 二人は泳ぎ続けます。高いうねりに翻弄され、水を思いっきり飲んでしまいます。

  「ウプッ、やべぇ!」


     

 ☆溺れた?…♪

 前に進まないまま、潮に流されているのに気が付きます。「引き返そう!」
 遅かったかもしれないその決断は、それでも結果的には我々を救う事になったのですが、
 目の前に見えていたゴールを切り替えて、遥かな浜辺を視界が捉えた時、
 疲労と焦りから絶望的な感覚がありました。「死ぬかなぁ・・・」
 S三はスイミングスクール経験者だから泳ぎは達者です。奴に励まされながら、
 田野は不思議な世界にワープしていました。辺りがとても静かで空が青く、
 真夏の午後の太陽が眩しい・・・。
 惰性で動かす手足から疲労で感覚が消えて行く・・・穏やかでした。



 ☆白昼夢♪

 「旅の始めに、好きだった女の子に伊勢志摩で真珠のブローチ買ったっけなぁ。
  渡せなかったなぁ・・・。あれ絶対似合うと思ったけど、残念だなぁ・・・。」
 「そういや俺が死んだら、葬式の写真はいいの使ってくれんと格好悪いなぁ・・・。」
 「この後行く予定だった南部のお婆ちゃん、楽しみにしてただろうに・・・婆ちゃんゴメン。」
 「和歌山市の叔父さん叔母さんも従姉妹達も久し振りなのに残念だなぁ。」
 「親爺やお袋は・・・やっぱがっかりするかなぁ?姉ちゃんはどうだろう?」
 「浜辺で待ってるK治やY則には迷惑掛けるなぁ・・・。昔から俺、そうだったなぁ・・・。
  海って・・・怖いよ。舐めた罰だなぁ・・・」
 横には名勝橋杭岩がのんびり海に横たわる。「岩々に隠れた鬼達が笑ってるのかなぁ。」
 諸々の思考が頭の中を行ったり来たりしながら、どれほどの時間が経ったでしょうか?


     

 ☆助かったぁ♪

 「田野!」S三の声にふと我に返ると、目の前に小さな漁船が係留されており、
 二人でしがみつきます。しかし手足が疲労し切っていて、昇れません。
 休むとどっと疲れが出て岸に帰れないと判断し、再び海に泳ぎ出します。
 一度気が緩んだから、もう集中力が出ない・・・と思ったら・・・ほどなく足がついた!
 「あれ?助かった?」重たい体を引きずって、砂浜を上がって行きました。
 ふと田野の肩にS三が手をかける。振り返るとあいつは大島の方を指差している。
 あれ?あんなに猛っていた海なのに、さっきと全然変わらない穏やかな顔してる・・・。
 まるで何事もなかったかのように、そこには安穏とした夏休みの風景が横たわり、
 橋杭岩の先には大島がのんびりと浮かんでる。海って・・・不思議だなぁ。


 残っていた二人は…暢気キャラの彼等も、この時ばかりは我々がいない事に気付いて、
 双眼鏡でチェックしながら救助を出すべきかどうかを検討してくれていたようです。
 「だったら助けに来いよ〜!」 いやいや、助けに来た奴に溺れられてもシャレにならん!
 でも有り難い事でやんす!奴らには昔から迷惑ばかり掛けて来たからなぁ・・・。
 
こっちも随分と迷惑掛けられたけどさ(^^)/

 潮の岬。あれから何度もリピート旅をした大好きな岬と海。
 本州最南端の碑がある広い草原から眺める360度のパノラマ・・・
 景色も空気も海も空も、そして想い出も・・・。
 でも不思議なものでここに来ると、一緒に行った4人組の元やんちゃ坊主達はもちろん、
 あの夏にはまだ流行っていなかった「岬めぐり♪」のメロディと、
 一緒に行った訳でもないのに、高校1年の頃の同級生の顔を男女問わず思い出すんだよね!
 高校生活が軌道に乗り始め、音楽をやり始めたばかりの頃・・・何もかもがキラキラしてたよ。
 まぁ何ともかわいいもんだぜ、15歳!

 紀伊半島の旅はまだまだ続きがありますが、またの機会に綴りましょうネ!


     

 はい、南紀も大好きです(^^)/

おしまい