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つれづれ日記

田野の日本紀行−17

赤倉温泉 編


  赤倉温泉・・・
  学校のスキー教室とは別に、意識を持って行ったという意味では、
  ゲレンデデビューの思い出の地だ。先輩や悪友達から「教えてやるから!」と言われ、
  大学一年の冬に半ば強引に参加させられた感もあったが、興味は十分あった。
  おお!白銀の世界!美しい山々!見る物全てにときめいていた。

  しかし到着早々はテンションが高いせいか、みんな一番上までリフトを昇る。
  国体コースでもある赤倉のチャンピオンコースは全長4qある。何も知らずに
  必死について行った田野が、山頂で先輩に言われた言葉は絶対忘れない。
  「ありゃ?田野、来ちゃったの?」
  おいおい!てめえが教えるって言うから来たんじゃねえかぁ!
  「まぁ、何事も経験だ。とにかく何とか下まで降りて来い。下に着く頃にゃ巧くなってるよ。」
  そう言い残すと、颯爽と滑っていった。山頂はガスで視界も悪く、そして誰もいなくなった。

  悪友どもは確か先輩達の前にいた。あいつら、絶対に忘れてる・・・(泣)。
  風がピューっとよぎって行く。とてつもなく長くて孤独な田野の一人旅が始まった。

  とにかく「八」の字に板を開いてボーゲンとか何とか言ってたなぁ。やってみるか!
  ソロソロ・・・シュッシュッ・・・スー・・・ゴー・・・ドゥワァー・・・ズババババーン!!!!!
  「な、なんじゃあ〜、こりゃあぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!・・・・・・」
  
  その日、暗くなりかけた赤倉のホテルに、田野は隣のスキー場から板を担いで戻って来た。
  寒いのに大汗をかき、表情は明らかに、疲労の色が濃いにも関わらず怒りに充ちていた。
  どこでどう間違えたのか、田野はコースアウトして隣のスキー場の麓に着いたのである。
  全く見覚えのない風景。探すホテルは見当たらず、人に訊いてようやくバスで戻って来た。
  この頃、中島みゆきの「別れ歌」が流行っていて、BGMで流れていた。何たるセンス・・・
  「道に倒れて誰かの名を〜♪呼び続けた事がありますか〜♪」 バスを降りてからホテル迄、
  この歌が妙に沁みた。ようやく辿りついた宿に皆とっくに戻っており、温泉にも入っていた。
  この夜田野は荒れた。

  翌日、女性の先輩達とお茶をしていたら、「昨日、リフトからスゴイ人見たわよ」と言う。ん?
  「ボーゲンなのに全く曲がらずに直線でコースを降りて来るの。結構スピードが出ていて、
  板を揃えた方が楽だと思うのに、ずっとボーゲンで直滑降なの。スゴイ迫力で、
  こぶやギャップを全部削り取って行くかのように雪煙を上げて、その人が滑った跡は、
  まっ平らに整地されたようになってるの。危ないって思ってもその人絶対転ばないの。」
  「アハハハ。何だそいつ!今日もいるかな?どんなウェアだった?」「白に赤いストライプ」
  その後、一同は固まった。田野のウェアに視線が集まっていた。

  このゲレンデデビューでの出来事「恐怖のボーゲン直滑降伝」は、所属サークルで伝説化し、
  田野に滑ってもらえば圧雪車は不用なのでは・・・等、帰京後は白熱した議論が展開された。
  これが田野の闘志に完全に火をつけた。その後田野は意地になってスキー場に通い、
  様々なエピソードも生まれて来る事につながり、そんな中で幾つかの曲も生まれていった。
  しかし、確かに自力で下まで降りて来た事によって、自己流ながら
  どんなコースでもビビらない程度の技量は身についてはいたのだ(^^)v

  ただ今でも中島みゆきの「別れ歌」が流れると、人知れず涙する田野なのであった。トホホ

     

                                             おしまい