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つれづれ日記
田野の日本紀行ー22
八幡平 編
十和田湖方面から、大湯、鹿角、花輪を経て、秋田県側から八幡平有料道路に入る。 八幡平は標高1,613mの山で、秋田と岩手の県境にあるためか、 かなり広域に渡ってこの名が用いられる地名が多いが、 岩手山の北裾から西に広がる雄大な高原は全般的に古くから八幡平高原と呼ばれている。 後生掛温泉の湯煙りや湿原にもそそられるが、この快適な道路をドライブし、 北東北の老舗リゾート地である八幡平温泉郷まで来ると、妙に落ち着いた。 −八幡平温泉郷− 大学のサークルの仲間を乗せての車旅…夏の終わりだった。激しい雨に見舞われていた。 中規模ながら真新しいちょっと洒落たホテルを見つけて飛び込んだ。 お盆休みを外れた時期の平日でもあった為か、他の宿泊客の気配はほとんどない。 台風だったのか、雨は夜半に雷を伴って一層激しくなった。周りの音は全く聞こえない。 我々は男女別の部屋であったにも関わらず、一つ部屋に寄り添って嵐をやり過ごしている。 怖い程の豪雨と雷鳴に、話はさして弾まないが、別の意味で感情は静かに高揚していた。 それは世界から隔離されたかのような感覚…嵐に晒された渦中にあったからか、 普段はとても話さないような内容…それぞれの家庭の秘密…それぞれの恋愛… そして表面的には判らなかった様々な機微… 明け方に雨はようやく小降りになって来た。外が薄っすら明るくなっている。 少しホッとして、互いに交わす視線に安らぎが漂った。優しい空気…静かな夜明けだ。 結局その広めの部屋で、皆少し眠った。出発後、欠伸しまくりで後にした八幡平は、 霧の中に薄日が差して、何とも言えずに緑が美しく、そして清々しかった。 思えば不思議な夜だった。その日を境に、その後のそれぞれの恋愛は大きく変化した。 しかしあの夜を共にした仲間は、あの夜話された其々の私的事情に触れる事はなかった。 −松川温泉− みちのく路を、車で曲作りの一人旅をしていた事がある。 地図を見て、ちょっと魅かれた松川温泉に宿を取った。季節は、やはり夏の終わりだった。 今でこそトレンドな宿が増えたと聞くが、当時は古い宿が2軒しかなかった。 「松川温泉・層雲峡」という宿だったと記憶する。もうないかな?新築したかな? 食事は宿泊客が一同に会する。同じテーブルに盛岡から来たという品のいいお婆さんが、 若者の不似合いな一人旅を根掘り葉掘りと訊く事もなく、何かと気遣ってくれた。 どう映っていたのか判らないが、ありがたかったし、とにかくお陰で心安らかになれた。 不信を極めていた曲作りに、その夜急にイメージが湧き始め、一心不乱に時を忘れた。 気付けばもう辺りが明るい。夜明け前に湯を求めて湯殿に降りた。 一人だろうと思った湯殿に、初老の男が入っていた。この地は地熱発電で有名らしい。 ブーンという独特の音が始終響いているのは、その発電所が発しているらしい。 男はこの辺りで働いているのか、必要最低限を言葉少なにポツリポツリと教えてくれた。 発電所の音は馴れると子守唄のように聞こえ、朝の窓を開け放した湯殿に心地よかった。 初老の男の存在は、みちのくの山奥のこんな温泉宿と山間の緑に妙に似合っていた。 朝食で夕べのお婆さんとまた一緒になった。曲が出来たので一転快活に話しかけた。 お婆さんも楽しそうだ。印象深い旅になった。松川温泉…去り難し。 −ペンション・イーハトーブ− 東八幡平の、喧噪を離れた草原に、ポツンと一軒の瀟洒なペンションがオープンした。 宮沢賢治に因んで「イーハトーブ」と名付けられ、静岡出身のご夫婦が経営していた。 南に岩手山を独占するかのように仰げる絶好のビューポイントだった。 白を基調とした部屋も清潔で落ち着きがあり、仏蘭西料理も美味…何度か泊まった♪ 朝、目覚めた時にこのペンションの部屋の窓から草原越しに仰ぎ見る岩手山… それが田野が知っている、最も美しい岩手山のシルエットなのだ。稜線の美しき山… この岩手山はその後曲にして、他の曲と一緒にテープに入れて送ったり、 静岡でLIVEをやることを知らせたりしたが、すっかりご無沙汰してしまっている。 でも記憶の中で、イーハトーブは物語の中の風景のように、年々鮮明になってくる。 もしまた八幡平に行く機会があったら、是非訪ねてみたいものだ。 夏…避暑には最高のロケーション…何せ周りに何もない!バルコニーでの昼寝は極上! 秋…10月に来た時は、十和田湖に次いで紅葉の見事なのがこの界隈。 冬…スキー!東八幡平が当時新しくてお洒落だったが、たけし軍団と遭遇した(汗) そしてペンションからは、真っ白な雪原の向こうに仰ぐ岩手山がまた素晴らしい。 (おそらく高校の修学旅行で)初めて訪れた八幡平は、素晴らしい紅葉だった。 何度かリピート旅もし、思い出もあり、四季折々の美しさも知り、愛おしい彼の地になった。 その後高速道も新幹線も充実し、気軽に行けるようになってみると、逆に足が遠のいていた。 でもあの草原がもしホテルだらけになってたら…あの河原がもしキャンプ族で一杯だったら… そんな光景を八幡平には見たくない気もするのだった。 おしまい |