奥美濃・郡上八幡 編
♪青い炎に 包まれたような 夜の底から 星を仰いだ
初めて許された紅 火照る思いを 水舟に映る月に 祈る恋唄♪
「郡上恋唄♪」より
「郡上恋唄♪」という曲を作った時、郡上八幡を旅してから5年以上の月日が経っていました。
今は高速が開通しちゃったらしいけど、その時は「はるばる来たぁ」という感慨がありました。
富山県と岐阜県の県境からやや岐阜寄りに、山に降った雨が涌き出て、
片方は日本海側に…片方は太平洋側に流れて川になる、いわゆる「分水嶺」があります。
奥飛騨の旅から足を伸ばし、この分水嶺を経て、四万十川に次ぐ清流「長良川」を辿ります。
上流部がやや落ち着いて中流域に達するあたり、支流の吉田川との合流地点に
城下町「郡上八幡」はありました。山間の水と空気の澄んだ美しい町です。
そう、新盆の頃、三日三晩徹夜で踊り続ける「郡上踊り♪」で有名な町ですね!
郡上踊り…う〜ん、これは是非見てみたい…。でも、郡上踊りはお盆休みの真っ只中ですから、
まず宿が取れない。どこもほぼ常連さんで一杯です。電話かけまくって
ようやく一軒の民宿を押さえました。まぁ、徹夜踊りだから寝に帰るだけ…。贅沢は言えません。
宿に着くと、すぐに町の散策に出掛けます。いい町です。落ち着いて、空気が優しい…。
町の中心部は、旧郡上八幡庁舎の前と新橋のあたり…あれ?何やってるんだ?
人だかりが出来、時々拍手が起こります。ご存知ですか?
橋の上から吉田川に飛び込むという伝統儀式が、この町のもう一つの名物なのです。
郡上の男はこの儀式を経ないと一人前と認められません。
小学生で上流の学校橋…青年期には新橋から…
町の中を流れる吉田川は、山間を揉まれてきた川が蒼く深い流れとなり、
澄んだ綺麗な水のまま、天然地形の深い澱みを形成します。
だから高い橋の上から飛び込んでも、怪我をする事はありません。そうはいっても、
橋の欄干から川面を見下ろすと…ひゃぁ〜!こえ〜!
観光者の飛び入りさんが果敢に挑戦していますが…飛び込むまで時間が掛かります。
同時に複数で飛び込むと危険なので、順番で一人づつ飛びますから、後がつかえます。
いざとなると足がすくみ、やめようと思っても大勢のギャラリーが「はよ行かんかい!」
と見てますから、止めたら大ブーイングの赤っ恥…野次馬さんは無責任ですが、
いい格好しようとしてびびってる兄さん達の顔も面白い。意を決して飛び込むと拍手喝采です。
「何これ?楽しそう!やろうかな…」ちょっと悪戯心がときめきましたが…やめときましたぁ。
その新橋のたもとに、この光景を見渡せるコーヒー屋さんがあります。
喫茶店好きの田野は早々にしけ込みます。郡上八幡は(水がいいから)コーヒーが美味!
吉田川が長良川に注ぐ手前で、小駄良川という小さい川が合流しますが、
そこに宗祇水という湧水があり、これが日本名水百選の一番手なのだそうです。
この水は町の人々に大切に奉られ、古い家並の路地を降りた所にあり、
味わい深いものがあります。町の中には「やなか水のこみち」という散歩道があり、
水と共存する人々の暮らしの知恵や風情を感じます。川には、太公望が鮎を狙って群がります。
その横でちょいと釣り糸をたれて、ウグイの釣り味を楽しみます。釣れる釣れる。
型モノがいい引きするわ!廻りのおっさん達は「ウグイなんか釣っても…」てな顔で見てます。
「何も釣れてないだろ?」てな顔を返してあげます。
さて…夕暮れ時…町中に張り巡らされた堤燈に灯かりが燈ります。
夜店が軒を連ね、お祭り気分が高揚します。日によってメイン会場が異なるそうで、
この日は本町櫓場(=ほんまちやぐらば)とのこと。行ってみると…やってるやってる!
そんなに激しい踊りではなく、かといっていわゆる盆踊りとも違う。
独特の振りにお約束が隠れている感じです。見ていると、だんだん引き込まれて
熱くなってくる感じは、共通のトーンがあります。
中心に地元のお馴染みさん、外にいくほど親戚・知人・観光一般という感じで輪が形成されます。
見様見真似で輪の外側から、引き込まれるように踊りに加わります。ハイル?ハマル?
山間の涼しい夜風の中でも汗が噴き出してきます。
なにか、夜の底が青い炎で燃えているかのような感覚です。
真っ赤ではなく、低温の蒼い焔…踊りながら見上げた夜空には、星が瞬いていました。
日中はほどほどにしか人がいなくて歩き易かったのに、夜はいるいる…。
この為に昼間は寝てたんですね?時間が経つにつれて踊りの輪が
外に幾重にも広がっていきます。夜中の一時頃には宿に引き上げましたが、
夜風を取り込む為に開けた窓からは、夜通し遠いお囃子の音が風に乗って聞こえます。
帰る人達の下駄の音が明け方まで響き、時折幼い子供の
下駄を履き慣れないつたない音が混ざります。うるさいといえばうるさいですが、
いつしか遠い子守唄のようでした。翌朝、町中をゆっくり歩き、
ちょっといい喫茶店でコーヒーを嗜み、この町を後にする時、
「いつか歌にしたいな♪」と思いました。
五年の月日を経て、「郡上恋唄♪」は生まれましたが、
山間の美しい町の繊細な機微は、是非一度皆さんの目と肌とで感じてみて下さいね!
♪宗祇水に零した 涙がいつか
吉田 長良へと下り 愛でる 恋唄♪
おしまい
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