田野と四万十川の話−3

ころばし編

 夕方に川から帰ると、宿の裏の畑を掘り返してミミズを捕まえます。
 形のいいミミズがそこそこ集まると、近くの森さんのお宅の納屋に、
 「ころばし」を借りに行きます。「ころばし」とは、竹を60〜80p程の長さで
 片側を筒状にくり抜いた物に竹笹で網の目に編んだラッパ状の蓋をした物で、
 四万十川の数ある伝統漁法用の漁具の一つです。

 まだ陽のあるうちに宿のわき道から川に出て、「ころばし」の中にミミズを入れ、
 川の中に蓋を川下に向けて沈め、浮かないように大きめの石を上に乗せ、
 紐をつけて発砲スチロールを結びます。「ころばし」を沈めた場所は、紐の先の
 発砲スチロールが浮くので判ります。これを5〜6本仕掛け終わると、
 宿に戻って温泉に飛び込み、川で冷えた体を温め、
 他の宿泊客より遅れ気味の夕食にありつきます。

 遊び疲れた体には、温泉と冷たいビールがたまりませんぜ!しかも
 この大正温泉は、入浴後の肌がツルツルする系統の泉質で、湯上り感は爽快!
 酔いのまわりも早く心地良い!渇いた体には冷えたビールがクイクイ入ります。
 見事なまでの「プッハァー!」っすね?疲れていて眠いんだけど、
 明日の朝の事を想像すると、もうワックワクです!ときめいてときめいて・・・
 楽しみで楽しみで・・・興奮して興奮して・・・なかなか寝つけな・・・
 ZZZ・・・zzz・・・ZZZ…。

 四万十川での朝は、六時に役場のチャイムが響いて始まります。でも、
 誰も信じないでしょうが、田野は向こうにいる間、チャイムが鳴る前の、
 夜の明けきらぬ時間帯に、遠く川の流れる音で目を覚まします。夏の、
 空が薄明るくなり始めた頃の、なんとも清々しい、忘れていた目覚めの感覚です
 眠いのに体は起き上がり、宿を抜け出して、夢遊病者のように、
 まだ薄暗い川に行きます。川には毎朝のように霧が立ち込めています。
 大好きな夢のような風景がそこにあります。

 発砲スチロールを目印に仕掛けた「ころばし」を全て岸に集め、
 大きめの編み籠の中で蓋を取ります。ミミズのみが出て来ます。
 次のやつもミミズだけ…「今日は駄目かな?」その次のやつもミミズだけ・・・
 あ〜あ、次のやつ・・・ん?な、なんだぁ?「ポトリッ!」何かがバケツに落ちた。
 黒くて細長い?う、う、う、鰻・うなぎ・ウナギ・うーなーぎーだぁぁぁぁー!!
 し、し、しかも天然のぉぉぉぉー!!!体中が喜びと興奮で震えます。気が付くと
 あたりはすっかり夜が明けていて、陽射しは既にやけた肌には痛いほどです。
 役場のチャイムが響き渡り、夏の朝が始まります。


 鰻はもちろん大好物ですが、そういう事はさておき、伝わるかどうかは判りませんが
 とても感動・感激しました。その年は、微妙に色の異なるもう一匹をゲットし、
 1匹目をブラック、2匹目をグレイと呼び分け、四万十川に滞在中は、宿の池の
 大きな魚篭に入れて飼ってました。いよいよ帰る日になって・・・さてぇ・・・
 食べるかぁ!??・・・う、・・・う、・・・だ、駄目だぁ・・・!
 こ、こんなにも感動をくれた鰻君を・・・く、く、食えねー!情が移っちまったぁ!
 二匹の鰻君を、出発前に静かに川に返します。

 その日の昼飯はどうしたかって?思いっきりウナギ食べましたよ、江川崎で・・・!
 もちろーん!お約束ですよぉー!んー美味かったぁー!養殖じゃ出せない味ぃー!
 さーて、次回は何をして遊ぼうかな…(^o^)/


     

                                               つづく

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