田野と四万十川の話−5

星の海 編

♪あの夏君が僕に求めたのは  一番綺麗な思い出だけ
 
瞳を閉じれば甦るよ  あの夜君と泳いだ星の海を♪


(星の海♪より)

 ☆台風直撃

 四万十川は「暴れ川」とも言われます。
 高知は台風の通り道ですから、毎年行っていれば
 直撃の洗礼を受ける事もよくあります。川は凄まじい程に表情を変えます。
 穏やかだった清流は濁流となって狂ったように流れ、長閑だった川原は
 あっという間に姿を消し、沈下橋は水中に没し、時には川原に続く竹林までもが
 激しい流れにさらされます。なんか陸の孤島に隔離されたような感覚で、
 はっきり言って「怖い」です。初めて四万十川で台風直撃に見舞われた時、
 前日からの激しい雨で川の変化を目の当たりにして感じました。
 「川をなめたらいかんぜよ!」



 ☆サバイバル・ドライブ

 そんな時はもちろん川遊びは出来ません。台風が通り過ぎてもしばらくは
 川に近づけません。田野は宿でしょんぼりです。
 「そうだ!こんな時こそ観光をしよう!」
 田野は車を出し、大正町から中村市を結ぶ峠越えの国道を進みます。
 「これのどこが国道なんじゃ〜!」
 と思うような狭くてすれ違いも困難なカーブ続きの峠道って、皆さんも経験ありません?
 その峠道に、木は倒れて来るわ、崖崩れで岩は転がってるわ、飛ばされた枝は
 降って来るわで、もう大変です。車は強風で今にも浮き上がるかと思われるほど
 大いに呷られ、道を塞ぐ岩を対向車の運転手と協力して撤去したり、倒木を
 車が通れるようにずらしながら、二時間掛けてようやく流域最大の町
 「小京都中村」へ到着します。


 ☆嵐の小京都中村

 さあ、中村を楽しもう・・・ってよく考えたら台風直撃下でんな事出来るかぁ〜!
 とんぼ公園も店も・・・どっこもやってまへん!当り前だぁね?人っ子一人
 歩いていない中村市のメイン通りや、邦画の名作「祭りの準備」や「郷愁」の舞台となった
 場面を(決死に?)なぞりながら、ずぶ濡れで観光(?)し、一軒だけ営業していた
 とんぼ公園近くの喫茶店(ここは良かった)で昼食をとります。
 台風の海が見たいと思いつき、河口に向けて車を走らせますが、堤防上の道路では
 ルーフキャリアが強風をまともに受け、ハンドルを握っていて「やばい」と感じます。
 遠巻きに河口付近の海を眺め、広い国道ルートで大正町に戻ることにしました。
 この時が初めてだった中村市の第一印象は? 「怒涛の町」でしたぁ(?_?)!


 ☆台風一過

 大正町への戻り道も2時間程かかりましたが、途中雨もだいぶ小降りとなり、
 大正へ着く頃にはもうやんでいました。川はまだごうごうと流れており、
 川遊びは2〜3日無理でしょうが、天気そのものは台風一過ですから、
 回復は早いようです。夕食をとり、ゆっくりと温泉につかって疲れを癒す頃には
 風も穏やかになっていました。湯上がりのビールでほろ酔いになると
 「ちょっと散歩でもしようかな」という気分になり、湯上りの肌に、山里の心地よい
 夏の夜風を期待して外に出てみました。すると



 ☆星の海

 すごい!本当にすごい!!生まれて此の方、こんなにすごい星空を・・・見た事はない。
 子供の頃からどんなに記憶を辿っても、高原で、山の上で、海で、島で、牧場で、
 海外で、様々な綺麗な星空の記憶がありますが、次元が違う…違い過ぎる・・・
 怖いよ、隙間がない・・・空という空、山影に空が切れる所までびっしりの星・・・
 落ちてきそうだよ・・・街灯のない夜道に、カンテラも懐中電灯もいらない・・・
 明るくてよく見える・・・でもどこにも影が映ってない・・・月が出ていないから?
 手を伸ばせば本当につかめそうな距離感・・・銀河芸術?・・・幻想世界?
 体が宙に浮いているような浮遊感・・・どこまでも泳いで行けるかのような陶酔感・・・
 見た事のない不思議な夜の風景・・・感動しました!


 その後、「星の海」という曲を作りました。
 あれ以上の星空は、後にも先にも見ていません。
 今となっては「あれは何だったんだろう」と思う事さえあります。
 台風がくれた贈り物かな?益々四万十川が好きになりました。
 さぁて明日は天気がいいぞ!今度は何をして遊ぼうかな(^^)/

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