田野と四万十川の話−7

止心庵 編

 止心庵(=ししんあん)。それは中村市の人里離れた山裾手前の小さい山の中腹に、
 ポツンとある藁葺屋根の庵です。小山の下までは車で来れますが、
 そこからは1〜2分、山道を登らないと辿り着けません。果たしてその正体は…?
 とある外資系の優良企業の、役員専用の研修所なのです。真冬の高知出張の折、
 週末を利用して中村市を尋ねました。田野のLIVEにも来てくれた事のある
 中村市のとある著名な方の奥様が、田野の「四万十川♪」を気に入ってくれて、
 非公式ながら市のイメージソングとして提供させて頂いたのがご縁で、
 今回は市の有力者さんや様々な方々への表敬訪問も兼ねた中村行きです。
 宿は市内のホテルか、少し不便で夜一人でも大丈夫なら、いい一軒家がある…
 と聞かれりゃあ、当然「一軒家ぁ!」っすね?


 ☆電車で四万十入り

 高知駅から特急に乗って、窪川からは黒潮鉄道へ直通。約二時間で、
 四万十川流域最大の町、城下町「中村」です。出迎えてくれたのは奥さんと、
 二十歳の娘さん=Aちゃん。奥さんは知的で上品な反面、明るくてポジティブな
 社交家タイプ。Aちゃんはアメリカ留学中にたまたま帰国していた、少し幼顔の
 聡明そうで勝気なお嬢さんです。美系母娘の操る車に乗せて頂き、着いた所が
 止心庵でした。外から見ると、昔父親に連れてってもらった和歌山のお婆ちゃんの
 家を思い出させる、藁葺の伝統的な日本の家屋です。見た瞬間に癒しを感じ、
 心が洗われます。心を止める庵…ネーミングにもオーナーのこだわりが
 生きてますよね?荷物を置くと、その日は市の官舎にご招待頂き、
 奥さんの手料理で歓迎して頂きました。美味しかったぁ!ワインもお料理も…


 ☆止心庵レイアウト…

 記憶が正しければ、庵を入ると土間の正面に大きめの囲炉裏があり、これを中心に
 十畳程の部屋になっています。この部屋を要に、向って右隣に襖を隔てて、
 やはり十畳程の寝室があり、正面奥から左にかけてが台所と八畳程の板の間。
 左奥の手前が風呂場でその向いが洗面所とお手洗いです。広くゆったりした作りです。
 周りには隣家の畑と、手入れの行き届いた庵の庭以外は山の自然のまんまです。
 人家や電線等は見えません。なるほど一人じゃ淋しいかもね!でも田野は…
 ときめきました。レイアウトを表現するとそんな感じですが、一つ一つをよく見ると…
 すごい!何も不自由ない。木も上質なら畳もきれい。暖房は空調設備が充実していて
 庵中が適度に暖か。布団は高級羽毛でしかもきれい。隙間風も入らず、
 セキュリティーもしっかり。照明設備も最新鋭。大型冷蔵庫には、多分自分の為に
 食材系やらビールが適度に入っており、カウンターキッチン、電子レンジ、真新しい食器類、
 音響設備とCD等の周辺ソフト、PC、電話&FAX。トイレも清潔できれいで温かく、
 ウォシュレット付き。き、極めつけは…風呂ぉぉぉぉ!


 ☆極楽!展望風呂!

 風呂場も浴槽もきちんと清掃が行き届いていて清潔感に溢れてます。フェースタオルも
 バスタオルも、ホテル級の質のモノが豊富に完備しており、湯殿は石造り…ひ、広い。
 しかも柚が50個ほど既に入れられており、お湯をはれば贅沢な柚湯に…なんだ?
 やたらスイッチが並んでるけど…うわ〜〜〜!でかい湯船が外から丸見えになるような
 ガラス張りの浴室になったぁ!うわ!何だ?山や庭の木々が「ライトアップされてる〜!
 き、きれい〜〜!!」…このお風呂には度肝を抜かされました。外から丸見えってのは
 都会人の発想で、外を見るんですよね?人気がないんだから、覗いて行くのは…
 せいぜい狸?ウサギ?猪?野鳥?です。両手両足を全開で伸ばして、飽きもせず
 いつまでも入っていましたぁ!一人では本当に贅沢です。いつか仲間と来たいなぁ…。
 でも、一人もいいぞぉ!えへ!


 ☆クルージング

 翌日はクルージング。夜の宴会用の食材調達を兼ねます。
 前日「観光がしたい?それとも何かしたい事ある?」と聞かれた田野は、「釣り!」
 と答えたのです。果たして…迎えに来てくれた奥さんに連れて行かれたのは、
 四万十川の最も河口にある渡し舟の桟橋の先の、小さなマリーナ。
 鉄工所の愉快な社長さんが所有するクルーザーで出航?ひゃ〜!その辺の堤防から
 ちょっとやろうと思っただけなのに、船すかぁ?防寒準備してないけど…
 ま、いっかぁ!河口から土佐湾に出たクルーザーは快調に飛ばし、足摺岬の手前まで
 クルーズ。寒ぅ〜!今日は海も荒れている。引き返して、河口からやや南のポイントに
 アンカーを下ろし、釣り開始です。ほどなく田野の竿にアタリ…いい引き…巻いて巻いて
 …わ!でかいカワハギ!薄作りの刺身が美味!この大きさなら肝もたくさん取れるぞ!
 幸先いい!続いて仕掛けを投入し、大漁の予感にウキウキしていると…パタッと来ない。
 そう、前作「ホエールウオッチング編」にある通り、鯨が出現したのですぅ!呆然…
 その後全く釣れず、天候も荒れてきたので撤収しましたが…驚いた〜!
 でも感動した〜!生鯨ぁ!


 ☆宴会 in 止心庵!

 夜は、市内の様々な分野の方々が、酒と食材を持って集まってくれました。
 賑やかなのもやっぱりいいなぁ!囲炉裏が大活躍です。目玉は「野生の猪汁」です。
 山に餌が減って、里の畑に下りて来て撃たれた猪。可哀想ですね?
 この四国の四万十川流域の山でさえ、猪が暮らせないんだなぁ…
 食べてあげるのが供養です。あれ?美味い!カツオのタタキはお約束!
 その他、有名な清水鯖(シミズサバ)などが持ち込まれ、刺身と鍋三昧です。
 貴重な今日の獲物のカワハギも戴きましたぁ!囲炉裏っていいすね?暖かで、優しい
 酒も進みます。酔いが回ってお開き時間が近づくと、風呂に入いる人急増
 アハ!皆さん知ってるんだなぁ!楽しい人ばかりで、町の音楽家の方々とは、いずれ
 一緒にコンサートをやろうと盛り上がります。今だに実現はしてませんが
 いつかは演りたいネ!


 ☆Aちゃんの話!

 翌朝は、Aちゃんが迎えに来てくれます。止心庵ともお別れです。
 でもこんなかわいい娘さんに三日も「運転手君」してもらうってのも、悪くないよなぁ。
 Aちゃんは、まだ反発心が抜けない微妙な年代を揺れているみたいでした。
 真冬の土佐湾はサーフィンのメッカです。Aちゃんもサーファーで、昨日も仲間達と
 乗りに行った様子。ただ公人の娘さんという立場から、周囲の目に晒されるのが、
 若い娘さんには耐えがたい事もあるようです。でも大丈夫、Aちゃん。
 勝気で活発なお嬢さんも、本当はピュアな淋しがり屋なのが、田野には見えちゃったよ。
 お父さん、お母さんが実は大好きなの、田野には判っちゃったよ!あれから随分と
 時が経って、今頃きっと笑い話になってるかもね!もうお嫁に行ったかな?三日間、
 取り止めのない話を合間合間にしただけだけど、周囲の誰により本音が言えたろ?
 田野はすぐに帰っちゃう人だからね!出口がなくて悶々としてたの、判ったけど…
 君はしっかり者さ…大丈夫!がんばれ!


 ☆帰郷・・・

 間もなく官舎に着くと、奥さんも合流してとある農家の畑へ連れってってくれ、
 温室栽培の美味しいトマトをもぐと、お土産として宅急便で送ってくれました。
 そして美人母娘に見送られて駅へ…ありがとうございました。結構人見知りするもんで、
 歌い手として持っていたイメージとは随分違ったでしょうね?

  無口なのは、無愛想に取られたかな?でもとっても楽しかったんです。
 印象深い旅になりました。止心庵、忘れません。
 人里から隔離された静寂の夜は、太古の昔から変わらない営みの筈。
 鉄工所の社長さんも、町の芸術家達も本当にありがとう。中村市。大好きになりました。
 「祭りの準備」「郷愁」等の数々の邦画の名作の舞台にもなった町。いつかこの町に、
 LIVEを演りに来たいな!その時は、きっと「四万十川♪」を歌いますから、
 是非また「止心庵」に泊めさせて下さいネ!


                                                         おしまい



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