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田野のつれづれ日記−23

ゴビの夕陽 編

 2010年7月。突如出張が決まった。行く先はモンゴル。
 最近は多くの大相撲の関取を輩出した国。
 ゴビ砂漠の大平原に、羊や馬や駱駝を追って暮らす遊牧民と、ジンキスカーンが有名な国。
 直行便は週3便。革命記念の休み前に入らないと業務が成立しない為、韓国のインチョン経由で。
 首都ウランバートルは思ったより開けていた。暑いか?そうでもない。涼しい?湿気がないんだ。

   

 カラッとした、モンゴルで一番いい季節に来たらしい。砂漠の多いこの国は、北海道の旭川の緯度。
 ウランバートルは盆地で、車の排気ガスや火力発電の石炭から出る煙が澱んでいるのか、
 空気はイマイチ。それでもモンゴルで一番高いビルの最上階のレストランで食事。うん、悪くない。
 さすがに都会ではあります。若者はおしゃれを楽しみ、恋人達が腕を組んで仲睦ましく歩いている。
 でも気のせいか、この国の人はあまり笑わない?何でだろう?笑顔が少ない印象だった。
 酔うと喧嘩が多いらしい。しかも何が原因かを覚えている人は少ないとか。邪気はないのだ。
 素朴な民なのだ…が、酔っ払いには面倒くさいから近付かんとこう(笑)。

 この地で2日、この国の大手財閥を渡り歩き、3日目はいよいよ鉱山がある南ゴビへ移動だ。

      

 40人程が乗れるプロペラ機で1時間半。とうとう南ゴビの地に降り立ったぞ♪
 この日から泊まるのは…ゲルと呼ばれるモンゴル式住居用テント。風呂もトイレもない生活。
 そう聴いていた。しかし大鉱脈が見つかり、欧米列強がこぞってこの地に群がった為、
 キャンプと呼ばれるプレハブながら、大規模な長期宿泊も可能な一大施設が砂漠の真ん中に出現。
 若いお嬢さん達も多く働く明るいキャンプ内、AC付のツインルーム、掃除の行き届いたトイレ、
 そしてありがたや♪供用ながらもシャワールームがある。これは助かる!

 食事も高級レストランとは行かないが、我々は欧米人と共にVIP扱いの特別室で、
 洋食の日替わりメニューが朝昼晩と出て来た。中々美味しい。
 毎日継ぎ足し継ぎ足しの、匂いの強い羊肉の鍋…と聞いていたので、これまた助かる。
 2年前に訪れたスタッフがその急変ぶりに驚いている。それほどこの素朴な地が、
 今、内外の大資本投下の元に激変しようとしている。いいんだか、悪いんだか…。


 360度、人工物が何も視界に入らず地平線だけが見える。それがモンゴル。それがゴビ砂漠だった。
 中々の世界観。ほ〜。凄い!しばし立ち尽くし、言葉もない。
 360度の地平線…これがモンゴルの最も強い印象だった。

 

 砂漠のあちこちにゲルと呼ばれるこの国特有のテントハウスが、群れで、或いは単独で点在する。
 初めてその中を見せてもらうが、こりゃ優れものだ。冬は暖かく、夏は涼しく風が通る。
 自然光も取れる。へえ〜!
 モンゴルの人々が暮らしの中で永年試行錯誤と工夫を凝らして築き上げた知恵の結晶だ。
 泊ってみたくもなるが…やめとこ(笑)

    
          
ゲルのテント村とその内部。ここで打合せをもった 

   
  
モンゴルの青空は抜けるようだ  ママさん通訳のMrs.Sサルマさん 夕景の中で缶ビール♪

 大平原の中を、毎日あちこちと異動した。
 道らしい道もない中で、時々馬を駆る遊牧民、駱駝を飼う遊牧民、羊を追う遊牧民に行き会う♪
 野生のガゼルにも行き会ったが、写真では確認出来なかった。どこかに映っているんだけど、残念。
 のどかだ。でも冬には−40℃迄冷えるこの辺りで、一番いい季節に来た幻影かもしれない。
 裸で馬に乗り、大草原を走る目の前の少年が、厳しい真冬にどう暮らすのかなど想像だに出来ない。
   
     
馬の群れ  野生のガゼル…何処かにいるはずなんだけど(汗)  駱駝の番い

 朝4時起きで、中国の国境近くまでひた走るという日、360度の地平線の東から、朝日が昇った。
 それはそれは綺麗だったよ。皆無言で見ていた。悠久の太古から繰り返され、営まれて来た風景。
 

 そこからは永い時間を掛け、パリダカールラリーのような道を行く。昼食を採れたのは10時間後だ。
 土埃に塗れ、石炭の粒子に塗れ、服も体も真っ黒になる。それでも現場を見て感じなければ、
 生きた仕事は出来ない。同行の女性通訳のSサルマさんも、果敢に現場に飛び出して行く。
 その気持ちが皆に伝わる。乾いた喉を潤す水にも限りがあるが、悲壮感はなかった。
 むしろ連帯感に充ちた時…同行者たちにしか判らないであろうこの感覚…思い出の1頁が増えたかな♪

 国境からの帰り道、ドライバーがモンゴルで最も有名なパワースポットに寄ってくれた。
 これが唯一の観光と言えば観光の時。大平原の小高い山の上に、果たしてそれは姿を見せた。
 こんな人里離れた所に、何故?誰が?独特の空気感だ。
 3回ずつ巡り、祈りを捧げる。敬虔な気持ちにさせられる。

 
        
モンゴルの有名なパワースポット…それは辺境にある石造りの寺院だった

 ウランバートルへ戻るローカル機が出る町を目指して、ランクルは更に平原をひた走る。
 上空が俄かに黒くなり、激しい雷雨に見舞われた。しかしその後の夕陽が素晴らしく綺麗で、
 大草原には虹が掛った。雨を運んできた来た人は、この国では幸運をもたらす人だという。
 そんな風に言ってもらえて悪い気はしないし、正直嬉しいけど、我々はこの国に…
 環境を破壊する事なく平和で豊かな暮らしをもたらす事が出来るんだろうか?
 
                 
判るかなぁ?大地に掛った虹♪
                
                
最終日に見た豪雨後の素晴らしい夕陽 

 でもそうせねば。
 こんなに素朴で美しい国を破壊して企業の利益を追求するのなら、それは耐え難い事だ。
 そういう流れを余儀なくされれば、田野は潔くビジネスマンを辞めるだろう。
 そうでないと、残して来た曲達に申し訳ない。その曲を聴いてくれた方々にも申し訳ない。
 子供っぽい正義感を、大人になってどう体現するのか…理屈は不要だ。
 共存の道はきっとある筈だ。それを探すのが仕事だ。仕事には誠実であればいい。
 ゴビの夕陽は、強くそう思わせてくれた。美しい夕陽だった。

 さらば!モンゴル!また会おう!
 その頃には、この国の人々も、もう少し笑顔を覚えるといいネ!もっと幸福になれるから♪

おしまい